My Magic Dairy › 『……沖田先生は

『……沖田先生は

2023年04月26日

『……沖田先生は、身が裂かれる程に誰かを好きになったことがありますか』

 常におどおどとしている馬越が、いつになく真剣な表情でそう問いかける。

 沖田はその言葉に、桜司郎が安芸で行方を晦ました時の感情を思い出してはドキリとした。


『……突然どうしました?まさか、そのような御相手が出来たのですか?』

『はい。……けれども、叶わぬ相手です。成立公司 開公司 公司成立 同じ性を持った……それも相手にはもう想い人がいました』


 馬越は儚げに睫毛を揺らし、苦々しく目を細める。吐いた息が白く宙に舞い、彼の持つ美しさも相俟って消えてしまいそうな錯覚を見た。

『それは……難儀ですね。私は、そういう事に疎いから、何も良い言葉を掛けて差し上げられない』

『いえ、何も言葉など要らぬのです。ただ……私が一番組を離れることをお許し下されば』


 その言葉に沖田は目を丸くする。まさか、組内に意中の人物がいるのかと。

 沖田の考えを察したのか、馬越は肯定するように微笑んだ。

 確かに叶わぬ恋の相手と四六時中寝起きを共にするのは辛いことである。しかし、それが脱走を意味するのであれば許可は出来ぬと顔を曇らせた。


『あ、安心してください。脱走では無く、組替えを申請します』

『……それならば了承しました。どちらの組へ……?私も推薦しますよ』


 公式な入れ替え以外の組替えには、属していた組長の推薦か、やむを得ない理由を承認される以外に手立てはない。馬越もそれを知って相談してきたのだろうと思った。

『……五番組へ、お願い出来ますか』


 その言葉に沖田は眉を顰める。五番組の組長である武田は、相手にされない腹いせに彼へ害をなそうするような男だ。わざわざ懐へ入り込む意味が分からなかった。


『どうか、理由は聞かないで下さい……。沖田先生を巻き込みたく無いんです。これはとしての願いです……』







「…………巻き込みたくない、か。貴方は一体何をしようと……」


 視線の先にある木には大きな蜘蛛の巣が張っている。そこへひらひらと飛んできた小さな蝶が引っ掛かった。バタバタと藻掻けば藻掻くほど、その振動で察した蜘蛛がやってくる。

 コホコホと咳を漏らすと、沖田は窓を閉めた。 夕方、桜司郎は山野と共に買い出しへ出掛けていた。その帰り道の出来事である。山野は突然足をぴたりと止め、険しい顔付きで通りの奥を睨み付けた。

「……おい、桜司郎。あっち見てみろ」

「何?お尋ね者でも居た?」

「違う。馬越っちゃんと武田先生だ。……後を追うぞ」


 そう言うなり、山野は桜司郎の腕を掴んでズカズカと大股で歩き始める。

「ち、ちょっと!八十八君、ねえ、」


 聞く耳すら持たない山野に引き摺られるようにして進めば、やがて人通りの少ない道へと辿り着いた。

 尾行がバレないようにと建物の影に身を潜めながら、様子を伺う。薄暗い部屋の中には真ん中に布団が一組敷かれている。ぼんやりと灯された行灯がやけに艶めかしかった。


──そういうところか。馬越君の噂はやはり本当に……。

 男所帯では嫌でもシモの話しは耳に入ってくる。実際に来たことが無くとも、存在だけは知っていた。


「桜司郎、何突っ立ってんだ。コッチ座れって」

 山野は壁の前に座ると、耳をそば立てる。桜司郎は浮かない表情のまま、山野の隣へちょこんと座った。

「……ねえ、やっぱり帰ろう。友達の



Posted by AmandaMonroe at 23:46│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。