My Magic Dairy › 時を同じくして、八木邸の
時を同じくして、八木邸の
2023年11月15日
時を同じくして、八木邸の二階の窓から桜花は空を見上げていた。昼間寝てしまったということも相俟って、なかなか寝付けずにいる。
思えばこのへ流れ着いて、初めて一人で眠る夜だった。藤の家でも、一人だったのは最初の夜だけで、後は三人で川の字である。
「藤婆、高杉さん……」
同じ空を見ているのだろうかと、気恥ずかしくなるような台詞が脳裏に浮かんだ。
ごろんとそのまま横になれば、煌々とした月明かりがその身体に射し込む。
思えば今日は色々なことが有りすぎたのだ。https://mathewanderson.futbolowo.pl/news/article/news https://www.beclass.com/rid=284b3c7654e8b0d5b852 https://ceye92.webmepage.com/mathewanderson/blog捕まったら終わりだと言われた新撰組に捕まり、そしてあろうことか居場所を与えられた。自分よりも遥かに強い人にも出会えた。
そして暖かい布団と、人のいる食事。それがどれだけ尊くて暖かいものであるかを桜花は知っていた。
だが、それも全て不安定すぎる。あくまでも他人であり、いつ見放されるかは分からないのだ。身内であっても捨てられるのだから、他人など余計にそうに決まっている。
このような字すらも読めない、戸籍すらない世界よりも、前の方がまだ生き残れる可能性がある。
──どうしたら元の世界に戻れるのだろう。
「……私は、どうすれば、いいの?」
そう呟けば、つんと鼻の奥が熱くなった。瞬きをすれば目の端からは雫が零れて、耳の辺りへ流れる。
一人の今なら泣いても許される。そう思えば、今まで張り詰めてきた糸が切れたかのように溢れ出た。
知らない世界に飛ばされた恐怖、未来への不安、元に戻れないかもしれないという絶望が胸を占める。
静かに啜り泣く声が部屋に響いた。手で拭っても拭っても止まらない。
──いっその事、前の世界の記憶など、本当に無くなってしまえばいい。そうすればこの怖さは無くなる筈なのに。
『時が全てを消し去ろうとも傍に居てくれると言った貴方。
時がそんな貴方を連れ去っても私はここに取り残されたままです』 初日の朝は最悪だった。結局本来ならば誰よりも早く起きて、家の主人を待っていることが下働きというものだろうに、あろうことか寝坊してしまう。
勇之助に起こされて目が覚めたのだ。だがそれでもマサも源之丞も何も言わず、おはようと迎えてくれた。
「一体、時計も無いのにどうやって過ごしているんだろう……」
桜花は竹箒を手にして表を掃きながら、独り言を漏らす。改めて思うが、時計がないというのは本当に不便だった。文明の利器の有難みがよく分かる、と溜息を吐く。
そこへ前川邸の裏門から、坊主頭の男が鼻歌交じりに此方へ向かってくることに気付いた。
──あれは確か。松原……先生だっけ。
松原も桜花の存在に気付き、片手を上げながら近寄ってくる。
「よお、おはようさん。早速精の出るこっちゃな」
「お、おはようございます、松原先生」
追い掛けられたことや、松原にぶつかったが故に捕まってしまったこともあり、桜花は無意識のうちに顔を怖ばらせていた。
それを見た松原は、困ったように太い眉を下げる。
「そういや、この前は追い掛け回してしもて済まんかった。副長から聞いたで、記憶が無いんやてな。可哀想な話しや……」
「あ……。その、信じてくれるのですか」
桜花は驚きの表情で松原を見た。すると松原は歯を見せて笑う。
「そないな嘘を吐く意味があらへんからな。逆に目立ってしまうやんか?間者やったらもっと忍ぶもんやろ。困ったら、何でも聞いてや」
あれほど凄い勢いで追い掛けてきた人間に、笑みを向けられているという事実に桜花は戸惑いを隠せなかった。だが、それが今だけの方便だとしても、信じてくれるというのは何とも心が暖かくなる。桜花は少しだけ口角を上げた。
「それでは……あの、どうやって時刻は分かるものなんですか。どこかに時計でも……?」
その問い掛けに、松原は目を丸くする。
「時計、なんちゅうもんはワシらには手ェ届かへんって。値が張るもんやからな、お大名くらいにならへんと買えへんのやないか」
「で、ではどのように?」
「時の鐘、や。ここら辺やと六角堂が近いんかな。捨て鐘を
思えばこのへ流れ着いて、初めて一人で眠る夜だった。藤の家でも、一人だったのは最初の夜だけで、後は三人で川の字である。
「藤婆、高杉さん……」
同じ空を見ているのだろうかと、気恥ずかしくなるような台詞が脳裏に浮かんだ。
ごろんとそのまま横になれば、煌々とした月明かりがその身体に射し込む。
思えば今日は色々なことが有りすぎたのだ。https://mathewanderson.futbolowo.pl/news/article/news https://www.beclass.com/rid=284b3c7654e8b0d5b852 https://ceye92.webmepage.com/mathewanderson/blog捕まったら終わりだと言われた新撰組に捕まり、そしてあろうことか居場所を与えられた。自分よりも遥かに強い人にも出会えた。
そして暖かい布団と、人のいる食事。それがどれだけ尊くて暖かいものであるかを桜花は知っていた。
だが、それも全て不安定すぎる。あくまでも他人であり、いつ見放されるかは分からないのだ。身内であっても捨てられるのだから、他人など余計にそうに決まっている。
このような字すらも読めない、戸籍すらない世界よりも、前の方がまだ生き残れる可能性がある。
──どうしたら元の世界に戻れるのだろう。
「……私は、どうすれば、いいの?」
そう呟けば、つんと鼻の奥が熱くなった。瞬きをすれば目の端からは雫が零れて、耳の辺りへ流れる。
一人の今なら泣いても許される。そう思えば、今まで張り詰めてきた糸が切れたかのように溢れ出た。
知らない世界に飛ばされた恐怖、未来への不安、元に戻れないかもしれないという絶望が胸を占める。
静かに啜り泣く声が部屋に響いた。手で拭っても拭っても止まらない。
──いっその事、前の世界の記憶など、本当に無くなってしまえばいい。そうすればこの怖さは無くなる筈なのに。
『時が全てを消し去ろうとも傍に居てくれると言った貴方。
時がそんな貴方を連れ去っても私はここに取り残されたままです』 初日の朝は最悪だった。結局本来ならば誰よりも早く起きて、家の主人を待っていることが下働きというものだろうに、あろうことか寝坊してしまう。
勇之助に起こされて目が覚めたのだ。だがそれでもマサも源之丞も何も言わず、おはようと迎えてくれた。
「一体、時計も無いのにどうやって過ごしているんだろう……」
桜花は竹箒を手にして表を掃きながら、独り言を漏らす。改めて思うが、時計がないというのは本当に不便だった。文明の利器の有難みがよく分かる、と溜息を吐く。
そこへ前川邸の裏門から、坊主頭の男が鼻歌交じりに此方へ向かってくることに気付いた。
──あれは確か。松原……先生だっけ。
松原も桜花の存在に気付き、片手を上げながら近寄ってくる。
「よお、おはようさん。早速精の出るこっちゃな」
「お、おはようございます、松原先生」
追い掛けられたことや、松原にぶつかったが故に捕まってしまったこともあり、桜花は無意識のうちに顔を怖ばらせていた。
それを見た松原は、困ったように太い眉を下げる。
「そういや、この前は追い掛け回してしもて済まんかった。副長から聞いたで、記憶が無いんやてな。可哀想な話しや……」
「あ……。その、信じてくれるのですか」
桜花は驚きの表情で松原を見た。すると松原は歯を見せて笑う。
「そないな嘘を吐く意味があらへんからな。逆に目立ってしまうやんか?間者やったらもっと忍ぶもんやろ。困ったら、何でも聞いてや」
あれほど凄い勢いで追い掛けてきた人間に、笑みを向けられているという事実に桜花は戸惑いを隠せなかった。だが、それが今だけの方便だとしても、信じてくれるというのは何とも心が暖かくなる。桜花は少しだけ口角を上げた。
「それでは……あの、どうやって時刻は分かるものなんですか。どこかに時計でも……?」
その問い掛けに、松原は目を丸くする。
「時計、なんちゅうもんはワシらには手ェ届かへんって。値が張るもんやからな、お大名くらいにならへんと買えへんのやないか」
「で、ではどのように?」
「時の鐘、や。ここら辺やと六角堂が近いんかな。捨て鐘を
Posted by AmandaMonroe at 19:43│Comments(0)