My Magic Dairy

「酔った時が一番人間の本性が出ると思

2024年03月06日

「酔った時が一番人間の本性が出ると思っちょるけぇ酔わせたら三津さんがどんな人か分かると思ったそっちゃ。」


『なるほど。晋作なりの三津を知る手段と言う訳か。』


あっちに行って!と三津にぽかぽか叩かれる高杉を見ながら桂はふっと笑みを零した。


「三津さんこっちにおいで。晋作に関わるとろくな事が無い。」


久坂に手招かれた三津はすぐさまそっちへ駆け出した。


「もうやら!呑まない!」


三津は胡座を掻いた久坂の横で正座したまま突っ伏した。http://kiya.blog.jp/archives/24070176.html http://hkworld.blogg.se/2024/march/entry.html https://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2702546/65378---12391---65292---12393---12358---35328---12358---21213---36000---12384---65311---65379.html


「何してんの?こんなとこで寝るんじゃないよ。」


腕を引っ張り起こそうとする吉田に抵抗して三津は久坂のお腹に腕を回してしがみついた。


「やら!兄上のここがいい!」久坂に抱き着いてお腹に顔を埋めた三津を桂以外がぽかんとした顔で見た。


「玄瑞が兄上?酔って頭おかしくなった?」


吉田は側に屈んで三津の頭をぺちぺち叩いた。


「止めろ。俺からしたら三津さんは可愛い妹なんだよ。三津さんも俺を兄だと思ってくれてる。それだけだから妬くなよ。」


吉田の手を払い除けて優しく頭を撫でてやると,三津は自らのそのそと身を剥がして久坂の膝に頭を乗せて寝転がった。


「へぇー妹ね。」


払い除けられた手の甲で三津の頬を下から上に撫であげると,その手は小さな両手に掴まれた。


吉田の手のひらを自分の頬に当てて,三津は満足そうに笑って目を閉じた。
そしてそのまま動かなくなった。


「え?寝たの?三津?」


呼びかけても反応はなく,すーすーと穏やかな寝息が聞こえてくる。


「三津さんは寂しがりか。」


久坂に膝枕をさせて吉田の手も掴んで離さない様を見てそうかそうかと一人頷いた。


「失ったモノが沢山あってね。」


高杉の言葉に桂はそう答えると,仕方ないなぁと笑みを浮かべながら三津の傍に寄った。


「部屋に連れてくよ。完全に酔ってるみたいだから多分起きないよ。」


軽々と抱き上げられて広間から連れ出されるのを高杉は目を丸くして見ていた。


「三津さんここに部屋もあるん?」


「本来はずっと家に居るんだけどね,しつこい壬生狼がそこも探してて危ない時はここで匿ってる。
部屋って言っても寝るだけの場所だよ。」


「そしたら今夜は俺もそこで……。」


「お前は余計な動きしないか見張る為に俺と同室だ。」


寝言は寝て言えと吉田は高杉の頭に手刀を落とした。
今日は三津の部屋に見張りが必要だと誰もが思った。





「なぁ稔麿。三津さんは何者なん?」


吉田の横に寝転がる高杉は天井を見上げながら問いかけた。


「甘味屋の娘だよ。」


「甘味屋の娘?桂さんならもっと他に選べる程女はおるやろ?」


「本当にね。だけど三津なんだよ。俺もそこが気になって甘味屋に通った。そしたら俺も欲しくなった。」


こんな筈じゃなかったんだけどと喉を鳴らして笑った。


「お前桂さんの女に横恋慕っていい度胸やな。」


ちょっと会わないうちに面白い事になってるやん!と興奮気味にもっと話せと催促した。「長くなって面倒臭ぇって途中で止めるの無しだからな。馬鹿でも聞きやすいように話してやるから。」


「おう!聞かせろ!馬鹿は余計やけどな!」


今は大目に見てやるよと吉田の方に体を向けて話を聞く体勢を整えた。


「さっきも言ったけど甘味屋に通い出した頃はまだ桂さんの女じゃなかった。
先に惚れたのは桂さんで三津は好きになりかけてるのに気付いてなかった。」


「ほぉ。でもちったぁ気があったってか。」


「そ,だから三津が気持ちに気付く前にこっちに向かせる手はあったけど,あの政変のせいで俺が長州に帰ってる間に色々変わってた。
壬生狼の女中になってたし,それどころかそこの副長の女って不名誉な肩書きまで付いてた。」


「は?」


高杉が何か言いたそうな顔をしてるのは分かったけどそこで口を開かせたら面倒臭い。
  


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大きな手は規則正しい動きで優しさを

2024年01月31日

大きな手は規則正しい動きで優しさを与えてくれた。


「こちらこそ怖い思いをさせてすまなかったね。」


三津の視界には畳しかないけど,父親の様な顔をしてるんだろうなと思った。
すると不機嫌ともとれる咳払いが降ってきた。


「明日の夕刻までと言う条件で借りて来た。勝手な事してすまねぇ…。
三津お前はおたえの所へ行って指示をもらえ。それと分かってるだろうが俺が呼んだらすぐに来い。俺の命令が一番だ。」


「……はい。」


相変わらずの副長様だ。顔を上げて穏やかに笑っている近藤を見てからもう一度頭を下げて立ち上がった。


「俺は近藤さんと話があるからさっさと出てけ。」 https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/2/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/2/ https://edward.ni-3.net/Entry/2/


野良猫を追い払うような仕草をされたがこれもいつもの事だ。
べーっ!と舌を出して土方を挑発して走って逃げようと障子を開けると,


「お三津だぁ!!!」


「え!?」


視界は真っ暗になり,ぎゅうっと締め上げられている。


「新八!てめぇ絞め殺す気か…。何群がってんだ暇人共!こいつに構う暇ありゃ剣術でも磨いて来いっ!」


散れっ!と言う怒号と共に三津を一目見ようと集まった隊士達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。


「かてぇ事言うなよ土方さん,みーんなお三津に会いたかったんだ。それより三津,お前何だか女らしくなったな?男でも出来たか?」


永倉の手が当たり前の様に三津のお尻を撫でた。


「いっ!?永倉さんの助平!!」


三津は永倉のすねを思い切り蹴飛ばした。


「いっ!ってぇー!!」


永倉が蹴られた足を上げてぴょんぴょん跳ねるのを尻目に三津は走って逃げ出した。


「今のは新八が悪い。さぁもう行った行った!」


ゆっくり話も出来やしねぇとぼやきながら障子を勢い良く閉めた。


「一気に賑やかになったな。それにしても急にどうしたのかと思ったが…総司の為だな?」


相変わらず総司には甘いなと豪快に笑った。
土方は口をへの字に曲げて腕を組み視線を逸らした。


「……まぁな。」


それを盾に連れて来たが,本当は自分の為だとは言えない。
だから勝手にそう思い込んでもらえると非常に有り難い。


それと三津が戻って来てもいいと言ってくれないかと期待もしているのは秘密だ。三津は屯所内を駆けずり回ってたえの居場所を探した。そして廊下の曲がり角でドンッと衝撃を受けて尻もちをついた。


「まさかと思ったがお前か…。」


大丈夫か?と腰を落として顔を覗き込んできたのは斎藤。


「こんにちは。おたえさん知りません?」


すみません私ですと頬を掻きながら小首を傾げた。


「どこか掃除でもしてるんじゃないか?それより何があった?お前がここへ来るって事はまた副長か?」


「その辺は聞かないで下さい…。土方さんがおじちゃんとおばちゃんに話つけたみたいやから…。」


苦笑いと曖昧な言葉で誤魔化した。斎藤は分ったと頷いて三津の手を引っ張って立ち上がらせた。


「…そうだ。この前お前に借りた手拭いなんだが…。」


あの購入した手拭いを渡すのを口実に部屋へ招こうと思い立った。が…


「お三津ちゃん!会いたかったっ!!」


廊下の向こう側から全力で走ってきたたえが斎藤を突き飛ばし三津に抱きついた。


「ホンマに心配したしお三津ちゃんおらんくなってから大変で大変で…。」


「明日の夕刻までですけど出来る限りの事しますんで何でも言うて下さい!ちょうど土方さんにおたえさんから指示もらうようにって言われてて…。」


二人は元から斎藤なんて居なかったと言わんばかりに,会話を弾ませ歩いて行ってしまった。


「また土方さんが余計な事したんですね…。」


斎藤の背後にピッタリ引っ付いた総司が奥へと消えていく三津の背中をじっとり見つめた。


「そのようだな。仕方ない副長には逆らえんからな。
だがいい機会じゃないか?お前がちゃんとあいつと向き合うか,すっぱり断ち切るか考えるのに。」
  


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予想外過ぎる行動に三津はあんぐりと口

2024年01月30日

予想外過ぎる行動に三津はあんぐりと口を開いて影から通りの様子を見た。


「何!?」


数人の町人…風な男らがその声に反応してきょろきょろと周りを探しだした。
すると人の隙間を縫う様に走る男の姿が目に入った。


「居たぞ!あいつだ!」


それは一瞬の出来事で,その走り去る男を追って何人もが駆け出した。


「えっ?えっ?」


本物の桂はここにいて,桂の身代わりになった男は何者なのか。http://carinacyril786.e-monsite.com/blog/--9.html https://paul.animech.net/Entry/2/ https://paul.anime-cosplay.com/Entry/2/
桂の顔と追いかける男達の背中を交互に見た。


「さぁ行こうか。」


桂はくるりと追手とは逆方向を向き,三津の肩を抱いて自分の影に隠しながら歩いた。


「あの人大丈夫なんですかね?」


「大丈夫だよ。伊藤君足速いから。」


『あ,あれ伊藤さんなんだ…。』





『聞いてたより追手の数多いんですけどぉー!!!桂さーーーんっ!!!』





なんて危機的状況で逃げ回ってるが桂には関係ない。


「あれは罰だからね。」


そう,この私をからかった罰。
すると三津が桂の着物の袖を引っ張り,何の罰?と可愛く首を傾げるから,


「こっちの話。」


知らなくていいんだよとにっこり笑った。


『それよりも私は君の手にしっかり握られてる物が何か知りたいんだけどな。』


聞きたくて仕方ないがやっと会えて二人の時間が始まったのに,他の男の名前など三津の口から聞きたくない。


『帰ってから稔麿を問い詰めるとしよう。それにしても彷徨いてた奴らが単純で助かった。』


いとも簡単に町の喧騒から逃れた。そして二人がやって来たのはいつもの場所。


「やっぱりここへ来てしまうね。」


鴨川の河原で腰を下ろすのにいい場所を探した。
あまり人目につかない場所を選び,桂は手拭いを取り出して地面に広げた。


「着物を汚しちゃいけないからね。」


「そんな!お気になさらず!」


三津は簪を飛ばす位の勢いで首をぶんぶん横に振った。


「お芝居観に出掛けたのに土や草をつけて帰る気かい?それとも私の膝にでも座る?」


くすくす笑ってその場に胡座をかいた。


「…すみません使わせていただきます。」


三津は素直に手拭いの上に腰を下ろし,桂はつまらんと唇を尖らせた。「そんな事出来る訳ないでしょう!」


こんな冗談にもムキになって感情を全面に出してくるのが見ていて楽しくて,ついからかってしまう。
おまけに予想通りの反応を示すから。


「怒らないで?まぁ怒っても綺麗だけどね。」


そう言って瞳を覗き込めばもう何も言えなくなるのも知ってるし,すぐに顔を背けてしまうからそれは阻止する。


小さい顔を両手でしっかりと包んでしっかり目を合わせた。
黒い瞳が忙しく動き回る。


「帰って今日の事を聞かれたら私には会えなかったと言いなさい。」


恥じらっていた顔から照れがすっと抜け落ちて,丸くなった瞳がしっかりと桂の顔を捉えた。


「どうして?」


「見てもないお芝居の感想は言えないだろ?三津は嘘がつけないから。」


少し呆れたような,それでも憎めないんだと言う感情を込めて微笑むと,三津はごもっともですと情けなく笑った。


「会ってなければそれ以上語る事もない。
そうだな,会えなかったのは私の都合が悪くなったと遣いが来たとでも言っておきなさい。
会えなかったと言った方がその埋め合わせがしたいとまた君を連れ出せるしね。」


三津の髪に挿してある簪を見つめながら口元を緩めた。
桂の視線が簪にいってると気付いた三津も目を細めた。


「どうも駄目なんだ。肌を合わせた日から三津の事が恋しくて堪らない。あの時の感覚が消えないんだ。」


そう囁やかれて三津は口を横一文字に結んだまんま硬直した。


『忘れないように定期的に思い出させとかないとね。』


自分が三津を求めるように,三津も求めてくるように。
もう前とは違うから何の遠慮もいらない。素直に全てを求めても構わないんだ。


「何でこっち見てくれないの?私がこんなにも君を好きだと伝えてるのに。」


ちゃんとこっちを見るように,両手で少し上を向かせた。
困り果てた目で見上げられて桂の体が疼きだした。


『駄目だ我慢出来なくなってしまう。』


少しは我慢してくださいと言われたばかりなのに。
それでも自分の為に着飾ったこの全てを台無しにして欲望に溺れるのもまた一興。


この私の為ならばそれも許されて当然だろうと思ってしまう。
  


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別に他人の恋の世話なんか趣味じゃな

2024年01月26日

別に他人の恋の世話なんか趣味じゃないが,思わず踏み込んだ事を言ってしまった。


無になってしまった総司の表情から,今の心境は想像出来ない。
それ以上は何も言わずにポンと総司の肩を叩いて横を通り過ぎた。


『俺としたことが余計な事を言ってしまったな。
しかし沖田が本気でアイツを奪いにかかったら副長がどうするか……見ものだな。』






「おばちゃん,大福三つ頂戴。」 http://kiya.blog.jp/archives/23697843.html https://hkworld.blogg.se/2024/january/entry.html https://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2700604/25276---12375---20498---12373---12428---12390---19978---12363---12425---35211---19979---12429.html


三津はピンと三本の指を立ててトキの目の前に突き付けた。


「……今度は何があったんや?土方さんと喧嘩でもした?」


「ちゃうし,そろそろちゃんと考えなアカンと思っただけ。
新ちゃんの所が一番静かで落ち着くの。」


そう言いつつ,内心は冷や汗もの。
余計な詮索は止めて欲しい。
昨日の事はなるべく……いや,絶対に知られたくない。


「十日なんかあっと言う間やな。気をつけて行っといで,それと早めに帰っておいでや?日が暮れるの早いねんから。」


「うん,行って来ます!」


不安げなトキに笑顔を見せて三津は手を振って店を出た。


『今日は新ちゃんに相談する事がいっぱいあるなぁ。』


片手に大福の包まれた風呂敷をさげて,片手で話す事を指折り数えた。


「久しぶりのお三津ちゃんだぁ…。
今日一日お三津ちゃん眺めてるって幸せだな。」


「いつ見ても可愛いぜ!
畜生,斎藤先生今までこんないい仕事してたのかっ!」


総司には悪いがやっぱり交代しなくて良かった。
隊士達は目尻を下げて,ふらふら三津の後ろをついて歩く。


「全くだね。」


自分達の会話に第三者の声。
二人が振り向くより先に,鈍い衝撃が体に走り,そのまま地に伏せた。


「おっと強過ぎたかな?失礼。」


倒れた二人を飛び越えてその影は三津へ一直線。


どさっと何かが倒れる音は三津の耳にも届いた。


「ん?」


振り返る途中で体は羽交い締めにされた。


「きゃっ!?」


「こんにちは。急いで,見つかっちゃう。」


「桂さん!?」


驚く暇も与えられず,手を掴まれて駆け出した。
桂は近くの土手を下り,人目に触れないよう橋の下に身を隠した。


「びっくりした!どうしたんですか?もしかして誰かに追われてはる?」


桂はゆっくりと首を左右に振った。
口元は笑みを浮かべるも目は笑ってない。
手首を掴む力もいつもと違う。いつもと様子が違うのは分かる。でも追っ手から逃げてる訳でもない。
怪我をしてる様子もない。


「ねぇ,何で土方君と盆屋に入ったの?」


「げっ!」


まさかの第一声に三津の顔は引きつった。
しかも“げっ!”だなんて可愛くない反応をしてしまった。


「その反応,事実なんだね?」


静かに怒ってるのが分かった。手に込められた力が強いのもそのせい。


「いや,あのそれはっ!!」


好き好んで入った訳じゃないけど,真顔で詰め寄られると上手く言葉が紡げない。
何とか誤解を解こうと口を開けば,


「三津が好きなのは誰?」


言葉を発する前に遮られてしまった。


「桂さんです。」


迷わず即答。嘘じゃないと目で訴える。


「君は誰のモノ?」


答えるこっちが赤面してしまう質問。
でも桂は真剣な顔で瞬きもしない。


「か…桂さん……。」


すると桂の目元が和らいで口の両端が持ち上がる。


「いい子だ。」


ご褒美だと言わんばかりに甘ったるい口付けをした。


「彼に無理やり連れ込まれたんだ?盆屋と知らずに。」


「分かってるやないですか!
もう…,さっきの桂さんめっちゃ怖かった。」


大きく息を吐くと同時に,三津の体からもするすると力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。


「私だってどうしたらいいか分からなかったんだ。
君を,疑ってしまった。」


桂は弱々しく手を引いた。それから少し悩みながら三津を抱き寄せた。


「私が居た宿が土方君の優秀な部下に嗅ぎつけられた。」
  


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ねじ伏せたいと血が騒ぐ。

2024年01月25日

ねじ伏せたいと血が騒ぐ。
顎に手を添えてまじまじとその顔を眺めた。


「土方さんこそ…。ちょっとは考え直したらどうです?」


「あぁ考え直してるさ,どうすればお前が賢く俺の言う事を利くようになるのか。」


三津は絶対に目を反らさない。おまけに挑発までしてくる。
だから土方もなじる。


「お前は誰かが死ぬのが怖いだけなんだろ?
どんな死に方をしようが,自分の知ってる人間が死ぬのがよぉ。」 http://jennifer92.livedoor.blog/archives/34871750.html https://note.com/ayumu6567/n/n927408b89a6a?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/a-asoukai.html


それが切腹でも,戦死でも,事故でも,病気でも,命が消える事を受け入れられないだけ。


「その大元はここだろ?」


三津の胸ぐらを掴んで一瞬で引き寄せる。
片方の手は右肩から背中をなぞる。丁度傷があるあたり。


「んっ!」


強過ぎず,触れるか触れないかぐらいの際疾い感触に三津の体がびくんっと跳ねる。
傷をなぞる指先から逃れようと仰け反った。


「やけに色っぽいじゃねぇか。お前からそんな声が聞けるとはな。」


仰け反って無防備に晒される喉元を眺めつつ,喉を鳴らして笑った。



「馬鹿にっ…馬鹿にしに来たんですかっ?」


うっすら目に涙を浮かべて睨みつけた。背中をなぞる指はそこに止まったまま,離れてはくれない。


「馬鹿にしてんのは,てめぇだろ。」


今度はその重低音にビクッとした。
土方の与えてくる威圧感に息が苦しくなる。


「やっぱりお前には色々教えてやる必要があるようだな。」


動けなくなった三津の体をすくい上げて部屋の奥へと向かう。


「え?どこに?」


奥にはもう一つ襖があり,土方は三津を肩に担ぎ直すとその襖を豪快に開いた。


部屋に踏み込んですぐに三津は仰向けに転がされた。
背中はふかふか…とまではいかないが,畳より柔らかい。


「あれ?布団?」


「貸座敷がある料理処はなぁ料理楽しみながら訳アリの男女が仲を深めるとこだ。
盆屋って聞いた事ねぇか?」


ニヤリと笑いながら三津の頬を撫でる。


「山奥にはそんな所ありませんでしたから…。
あの,説教なら正座で聞きますんで!」


「あんな声聞かせといておあずけはねぇだろ?」


三津の肩に顔を埋めるようにして耳元で囁いた。
それには三津の体が震え上がった。


「三津…。
お前はやっぱり刀を握る奴らが心底憎いんだろ。
人を傷つける奴らはみんな一緒とでも思ってんのか?」


土方の鼻先が首筋をくすぐる。
今,彼がどんな顔でそれを問いかけてるのか。


「そんな事…。」


ない。と,言いたかったけど言えなかった。
嘘がつけない性分。馬鹿正直に黙り込んで肯定した。


耳に土方の溜め息がかかる。
それに気を取られていたが土方の手が,自然に帯を緩めている。


「当たり前みたいに何してるんですかっ!
新選組の副長が女中を手篭めにするのは流石にアカンでしょ?
私情挟むやなんてあきませんって!」


だから逃がしてくれ。
土方の体を押しのけて,四つん這いになって布団の上から逃げ出そうとするが,


「人の話聞いてたか?訳アリの男女が逢い引きに使うのが盆屋だ。
何ら問題ねぇだろう。」


「問題大有りです!
ここに来る訳アリ男女は同意の上ですよね!?
ちょっと何してるんですか!?」


土方の重みが背中にのしかかる。
今度は馬乗りにされた。


「ここに来るのは同意の上だろうが。」


「布団あるやなんて知りませんもん!
それにご飯食べに来たんであって!」


馬乗りにされた状態でじたばたも出来ない。


「存分に体動かした後なら飯も美味いだろうよ。」土方は慣れた手つきで腰紐まで取り去っていく。


「待って下さい!悪ふざけが過ぎますって!」


着物と体に隙間が生まれているじゃないか。
土方が触れる手が,直に感じられる。


「悪ふざけでお前を脱がした所で愉しいはずねぇだろ。
この目で見ておきたかっただけだ。」


人差し指がトンと肩甲骨の辺りを押す。


「こんな物見てどうするんですか…。
私からしたら見られたくない物なんですけど。
無理やり脱がして傷眺めるやなんて,とんだ変態ですね。」


何だか抵抗する気も失せて,大きな溜め息を一つ。
  


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『体で教える?何言ってるん?この人は…。』

2023年12月31日

『体で教える?何言ってるん?この人は…。』


「あの,教えて欲しいのは土方さんの生い立ちとか,昔の話で体は関係ないんですけど…。」


「あ?そんな話して何になるんだよ。
それより互いの呼吸と体温で分かり合う方が性に合ってんだ。俺を知りたきゃ言う事聞きな。」


妖艶な笑みで三津の首筋から顎に向かって指先で撫でる。
その手つきに三津の肌は粟立った。http://eugenia22.eklablog.net/-a215193677 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-26 https://www.beclass.com/rid=284b43e658fe58530adb


「いやいやいや!話だけで充分なんです!」


肌と肌で語り合うつもりで歩み寄ったんじゃない。
迫って来る土方の胸を力一杯押して悪あがき。


「一から教えてやるって言ってんだ有り難く思えよ?
嫌だ嫌だって言いつつも,快感になってくんだよ。」


意地悪く笑う顔に三津は硬直した。
いとも簡単に組み敷かれ,長い指が顔の輪郭をなぞる。
鼻先が今にも触れ合いそうな距離。三津の間抜け面を下に見て,土方はより口角をつり上げた。
その不敵な笑みに三津の体中からは嫌な汗が噴き出す。


不逞浪士に囲まれた時よりも本能は危機感を感じている。
黒目は忙しく,右へ左へと動き回る。


「じょ,冗談はこの辺にしてお話を…。」


土方の顔が迫って来るのを,必死に押し返しながら顔を反らした。


「そう急かすな。順番ってもんがあるだろうが。」


「だからそうじゃなくって!
分かり合うには腹を割って話し合えばいいだけで!」


どんなにもがいても,一見華奢に見える腕は三津の体を畳に押さえつけて,びくともしない。


無駄な抵抗をする様子を土方は楽しんでいるようにしか見えない。


「だから俺には腹を割るのも股を割るのも一緒だって言ってんだろうが。
往生際の悪い奴だ。」


相変わらず雰囲気をぶち壊しやがる。もっと女らしく恥じらってみろと思いながら,三津の体の自由を奪う。


絶体絶命,冷や汗だらだらの三津に天からの助け舟。
部屋に近づいて来る足音。それはこの部屋の前で止まった。


「土方くん,ちょっといいかな?」


障子の向こうからは山南の呼ぶ声。


「今取り込み中だ,後にしてくれ。」


土方は顔色一つ変えず,平然と三津を組み敷いたまま返事をした。
ここで山南を逃してしまえばもう後はないだろう。


「山南さん!助けて!」


「お三津ちゃん?失礼するよ?」


困惑した声がして,障子がすっと開いた。


「土方くん,屯所内では流石にまずいだろう。せめて別の場所にしてくれないか?」


それに対して土方は堅いこと言うなよと悪びれもなく笑った。


「別の場所でも嫌です!お断りです!土方さんの変態!」


三津は思いっきり土方を突き飛ばして走って逃げた。
突き飛ばされた土方は尻餅をついた姿勢のまま喉を鳴らして笑った。


「あれだけ走れたら上等だ。
で?何の用だ?」


胡座に頬杖をついて苦笑いで立ち尽くす山南を見上げた。


「邪魔したのは悪かったけど,そんな冷たい言い方しないでくれよ。」


「あれぐらいしないとあの馬鹿は学習しねぇからな。
あんたの小姓とは違って,何も考えてないんでね。
いい意味でも悪い意味でも。」


それでも橘よりは可愛げはあるぞと,ふんと鼻を鳴らして意地悪く笑った。
山南は返す言葉が見当たらず,困ったような笑みを浮かべた。山南はゆっくりと腰を下ろし,綺麗な姿勢で正座をした。
育ちの良さが分かると土方は鼻で笑う。


「今日君を狙った奴らに心当たりはあるかい?」


苦笑いのままそれとなく今日の出来事に話しを変えた。


「いちいち顔も覚えてられないぐらい心当たりは有る。」


有り過ぎて分からんと腕を組む。
かと言って困るほどのもんじゃねぇよと気持ちにも表情にも余裕を見せた。
  


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「足首に処置を施しておりました。」

2023年12月29日

「足首に処置を施しておりました。」


「出過ぎた真似をするな。手当てなら知識のある者にさせる。お前は山南副長の世話だけやいてろ。」


そんな言い方あんまりだ。
橘は心配して,こうやって手当てをしてくれた。
土方は優しい言葉すら掛けてくれなかったのに。


「土方さん!」


「申し訳ございませんでした。以後気をつけます。」


三津が反論しようとしたのを遮って,橘が頭を下げた。https://keiichi76.anime-festa.com/Entry/22/ https://mis2231.atgj.net/Entry/26/ https://yuji.asukablog.net/Entry/20/
あまりに理不尽な光景だ。


三津は勢い良く立ち上がり土方と面と向かって睨み付けた。
今回ばっかりは物申してやると大きく息を吸い込んだのだが,


ふわりと体が宙に浮き,見えていた世界が,土方から廊下にすり替わった。


「あれ?ちょっと土方さん?」


何してるんですかと背中を叩くが何の反応もしてもらえず,見事に無視された。


「余計な行動は慎め。」


三津を無視した土方は,深く頭を下げる橘を一瞥して踵を返した。


暴れる三津を担いだまま,ずかずかと一室に踏み込んで手荒に三津を畳に下ろした。


「土方はん,一応怪我人やからお手柔らかに。」


どうやらここは斎藤の部屋みたいだ。
土方の手荒さに苦笑いの山崎と呆れ顔の斎藤が胡座をかいて座していた。


「ちっとは痛い思いしねぇと分からねぇんだ,この馬鹿は。」


「また馬鹿って!」


食ってかかろうとしたが,左足首を掴まれて大胆に持ち上げられた。
掴まれた所が痛くて,ぎゃっと不細工な声を上げて仰け反った。


『どんだけ警戒心がないんだ,この大馬鹿者が。』


橘が巻いたさらしを乱暴に取り払う事で怒りをぶつけた。
男に足をさらけ出す事に恥じらいが無さ過ぎて腹が立った。


せっかく橘が巻いてくれたのにと文句を言うのも聞き流し,
拳骨を一発見舞ってやった。『何だこの可愛げの無い顔は。』


拳骨を食らってからの三津は膨れっ面で土方の顔を見やしない。
山崎や斎藤が話しかけると笑顔を見せる。
何とも挑戦的な態度に土方は口元をピクピクとひきつらせた。


自分が目を離したとは言え,危ない所を助けてやった。
怪我を負わせてしまったが,抱きかかえて連れて帰って来てやった。


『それなのにこいつと来たら助けてもらった礼も言わねぇ。
尻を触ったと俺を変態扱いしやがって。
その癖,橘に足は触らせても何とも思わねぇってか?』


だがここはぐっと堪えた。
ひとまず胡座を掻いた足の上に三津の足首を持って来て,腫れ具合を確認した。


「あとは土方はんの薬飲ましたったらええんとちゃいますかね?」


山崎からお墨付きも貰い,土方自らさらしを巻き直し始めた。
その手元を三津はじっと見ていた。


『何だよ,アイツと比べてやがんのか?』


そうだったら気分が悪い。
思わず手に力が入ってしまった。


「痛い!」


三津が悲鳴を上げて足を引っ込めた。
相当痛かったのが分かる。堪えてるけど,目が潤んでいる。


『あ…。すまん…。』


とは,素直に言えなかった。


「少しは我慢しやがれ。」


今のは自分が悪い。そう分かっていながら言い放った言葉は溝を深める。


「そうですね,これぐらい土方さんにしてみたらどうって事ないですよね。ほっといても治りますもんね!」


三津の苛立ちも最高潮に達してしまい,巻きかけのさらしを解き,土方に投げつけて部屋を飛び出した。


毎日命を懸けてるみんなに比べたら大した事ない。
こんなの怪我のうちにも入らない。


「だからってあんな力込めんたって…。」



どう考えてもわざとだ,嫌がらせだ。
だったら怯んではいけないと思った。やられっぱなしは嫌だから。


『病だって気からなるんやし,怪我だって気合いで治るやろ!』


そんな勘違いで奮い立たせて,仕事だっていつも通りこなしてやると誓った。
負けず嫌いの闘志が燃える。


闘志を燃やしながらも泣きそうな顔でひょこひょこ廊下を歩いた。


「お三津!さっきは散々だったな!」


そう言って駆け寄って来たのは巡察から戻ったばかりの藤堂。


『さっきだけやなくて今も散々な目に遭いましたよ…。』


不満をぶちまけたい気持ちを抑えて,平気と笑顔全開で嘘をついた。
  


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総司が土方の部屋の前で無の境地に

2023年12月24日

総司が土方の部屋の前で無の境地に足を突っ込みかけている所へその男はやって来た。


「…今回は何をやらかしたんだ?相変わらず懲りないな沖田。」


「この気配…。
斉藤さんですね?」総司が土方の部屋の前で無の境地に足を突っ込みかけている所へその男はやって来た。


「…今回は何をやらかしたんだ?相変わらず懲りないな沖田。」


「この気配…。
斉藤さんですね?」 http://eugenia22.eklablog.net/-a215161295 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-25
https://www.beclass.com/rid=284b4376586e6b75d370

目を閉じたまま自分を見下ろしてるだろう人物を思い描く。


「声で分かるだろ。」


冷たくあしらわれたところで答え合わせだと斉藤の顔を確認した。


「斉藤さんも相変わらず放浪癖があるみたいですね。今回はどちらに潜伏してたんです?
とりあえずお帰りなさい。
土方さーん,斉藤さんですよ!」


総司の呑気な声に障子は勢い良く開き,あたかもそこには斉藤しかいないと思わせるぐらいに土方は真っ直ぐ前しか見ない。


「入れ。」


斉藤だけ。
自分には斉藤しか見えてないぞと雰囲気で訴えた。


その言葉を聞いてから斉藤は土方の後に続く。
そして入る前にちらっと総司を一瞥した。


斉藤の視線を合図に総司は嬉々として立ち上がり,何食わぬ顔で中に転がり込んだ。


「俺は斉藤に入れと言った。
勝手に入ってくるな。まだ罰は終わってねぇ!」


苛々を全面に出してようが気にしないのが総司だ。


「だって斉藤さんがあそこにいるのは邪魔だって言ったんですもん。」


この目です。この目が間違いなく言ったんだからと堂々と居座る。


話の邪魔はしませんよと最後に付け加えてにっと笑った。


「目障りだ。罰はもういい,三津に茶を持って来させろ。その後てめぇは壬生寺へ行け。」


副長命令だと念押ししてすぐさま部屋から追い出した。
壬生寺へ行けばしばらく帰っては来ないだろう。


ひとまず気持ちを落ち着かせるか。
胡座を掻いて大きく息を吐いた。


「……心中お察しします。」


斉藤の寡黙な所は好きだ。
土方はそりゃどうもとうっすら笑みを浮かべた。
三津は早く終わらせて大部屋に行かねばと励む所へ悪戯っ子現る。


「あ!もう終わったん?」


「終わりです!土方さんから伝言でお茶を持って来いとの事です。じゃ!」


総司は用件を告げるとあっという間に姿をくらました。


「丁度いいや,土方さんの所で一服してから大部屋に行こっと。」


三津は雑用を押し付けられているのに何の疑問も抱かず,鼻歌混じりで陽気に台所へ向かった。


目を閉じたまま自分を見下ろしてるだろう人物を思い描く。


「声で分かるだろ。」


冷たくあしらわれたところで答え合わせだと斉藤の顔を確認した。


「斉藤さんも相変わらず放浪癖があるみたいですね。今回はどちらに潜伏してたんです?
とりあえずお帰りなさい。
土方さーん,斉藤さんですよ!」


総司の呑気な声に障子は勢い良く開き,あたかもそこには斉藤しかいないと思わせるぐらいに土方は真っ直ぐ前しか見ない。


「入れ。」


斉藤だけ。
自分には斉藤しか見えてないぞと雰囲気で訴えた。


その言葉を聞いてから斉藤は土方の後に続く。
そして入る前にちらっと総司を一瞥した。


斉藤の視線を合図に総司は嬉々として立ち上がり,何食わぬ顔で中に転がり込んだ。


「俺は斉藤に入れと言った。
勝手に入ってくるな。まだ罰は終わってねぇ!」


苛々を全面に出してようが気にしないのが総司だ。
  


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朝一番から目が点になった三津

2023年12月24日

朝一番から目が点になった三津ははっとして気付いた。


『油断するなってこう言う事か!』


理不尽だと思ったが,あくまでもここは剣客集団“新選組”の屯所。
いつどこから命を狙われるかは分からない。


物騒なこと極まりないがこれが現実。


さっきのたえの忠告の意味を理解して一人で納得した。


もっと気を引き締めなければならない,そう肝に銘じた。https://porno34931.educationalimpactblog.com/31051361/what-is-call-option-and-put-option https://ssgnews.com/2020/03/21/trade-stocks-commission-free-fxtm-global-online-trading/ https://unirea69147.win-blog.com/13489648/what-are-call-options-how-to-trade-them


一日は始まったばかり。深く考えてる暇はなく朝餉の後片付けをして,次なる仕事,洗濯へと向かう。


目の前には異臭を放つ洗濯物が山のようにそびえ立ち,三津を迎え撃つ。


「すっ…ごい量!」


そしてこの臭い。
だが,これしきで怯む三津ではないぞ。


自らを奮い立たせて,いざ勝負。
黙々と洗濯物と戦う。


『この洗濯物が臭いんか自分の汗が臭いんか分からん…。』


時々流れ落ちる汗を拭いながら洗い続けた。
遠くからは怒声と竹刀のぶつかる音が聞こえた。


全てを洗って干し終わる頃には手の感覚はなかった。


「ちょっと一休みしよか。」


お茶でも飲もうと誘うたえは,この仕事が何て事ないと思わせる笑顔だった。
それには尊敬の眼差しを向けた。


天気もいいし,縁側に腰掛けてほっと一息。


そこで三津は気になっていた事を口にした。


「おたえさんも八木さんの家に行くなって言われてるんですか?」


あっちも部屋を借りてるのに何もしないでいいものか,そればっかりが気がかりだった。


「うん,そう言われてるけど私は大丈夫。
でもお三津ちゃんは行かん方がええよ。
すっごい気難しい人らがいてるし。」


気難しい人たちがいるなら,新入りの自分が容易く近付けるもんじゃないなと納得した。


「一体誰が住んでるんですか?」


そんな人たちも一応は新選組の一員な訳だし知っておきたい事柄だ。


それにこんな質問は土方には絶対出来ない。
と言うよりも答えてもらえないだろう。


「芹沢さんって人とその取り巻きの人たち。
ほら,この前商屋が火事になったの知らん?
あれ芹沢さんの仕業らしいし。」


「えっ!」


開いた口が塞がらない。
まさかそんな事件を引き起こす人物が住んでるだなんて…。
ある意味知らない方が幸せだったかもしれない。


『出来ればお目にかかりたくないな…。』


この話は聞かなかった事にしよう。
三津は黙ってお茶をすすった。天気もいいし,お茶も美味しい。


あぁ…幸せ…。
至福のひとときを噛みしめる三津の背後に不穏な影。


「新入りのクセにいいご身分だなぁ。」


この声はもしかして――
いや,もしかしなくともあの人だ。


「ひ…土方さん…。」


腕を組んで仁王立ちする姿は威圧感を倍増させる。


これはさぼっていると見なされて説教されるかと思いきや,


「仕事だ,ついて来い。」


あら,呼びに来ただけかしら。
仕事なら何ら問題ない。土方の後をのこのこついて行った。


やって来たのは道場。
練習を終えた隊士たちが引き上げている最中だった。


「あ,お三津ちゃん。」


三津に気付いた隊士たちは目尻を下げただらしない表情で小さく手を振る。
だが土方が隣りにいるから誰一人として近寄っては来ない。


「今からここの床磨きだ。それが終われば庭の掃除,それも済んだら廊下を磨きながら俺の所へ報告に来い。」


「えっ一人で?」


結構広いんですけど,この道場…。
それに庭の掃除も自分一人なの?
まさかと思って土方を見上げる。


「当たり前だ,てめぇの仕事を他に誰がやるってんだ。
とっととやらないと日が暮れるぞ。
いいか?てめぇらも手伝うんじゃねぇぞ!
分かったらさっさと散れ!」


睨みをきかせた鬼は颯爽と道場を後にした。


「今回のお女中さんには随分と厳しいんじゃないですか?」


何か恨みでもあります?
そう言って土方にまとわりつく総司。


「あいつがへらへら笑ってるからだ。根性叩き直してやる。」


いつまで笑ってられるか楽しみだ。
泣いて許しを乞う姿を想像して口角をつり上げた。


「ふーん…。あんまり厳しくするとまた辞めちゃいますよ?
今回は芹沢さんに会わずとも。」


ぺろっと舌を出して冗談っぽく言いながらも,嫌な所を突いてくるのがこの男。


「あいつは辞めねぇよ。
辞めるとか逃げるとか頭に浮かばんだろ,馬鹿だから。」


あ,違った阿呆だった。
一人で突っ込んでくくっと笑った。


「それにあいつなら芹沢筆頭局長様に会っても,よろしくやって気に入られるかもな。」
  


Posted by AmandaMonroe at 00:30Comments(0)

『ああ,そうか。

2023年12月17日

『ああ,そうか。その理由が悩みの種だったのか。』


単に見合い相手に不満があるとか,まだ嫁に行きたくないってだけじゃない。
三津はきっぱり言い切った。
相手にこれっぽっちも気がない証拠。


「でも,答えは変わらへんって言っても納得してくれなかったんです。」



三津は腕を組んで顔をしかめた。https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/12/15/174149 https://ameblo.jp/freelance12/entry-12832661440.html https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post502514027//







「じゃあ答えが変わらない理由を詳しく説明すればどう?
それを聞いたら納得してくれるかもしれないよ?」


最もな提案をしたつもりだが,三津は渋い顔のまま一点を見つめていた。
その理由の中にもっと深いものがある。


相手の気持ちを跳ね返してしまう大きな理由――


弥一の気持ちも真っすぐだ。「もしかして好きな人がいるのかい?」


気持ちが動かないのはすでに誰かの所に気持ちがあるから。
そう思って単刀直入に聞いてみれば,三津の渋かった表情は驚きの表情に変わった。


「当たりだ。」


三津が分かり易い子で良かった。
丸くなった目と半開きの口をくすりと笑った。


「立派な理由じゃないか。どうしてそれを言わないの?」


きっとその好きな人が問題なのだろう。
相手に言えない人物なのか。
そんな難しい恋をしている娘には見えないけど。


色んな想像を巡らせながら三津が言葉を返してくるのを待った。









この人はどうしてこんなに心を見透かしてくるんだろう。


「何で分かるんですか?」


参ったなと態とらしくへらへら笑って,動揺した気持ちを紛らわした。


でもそんな下手な芝居も桂の目は見抜いてしまうんだろうなと観念して,改めて桂と向き合った。


「好きな人がいるのは正解です。
でも自信持っては言えないんです…もう死んじゃったから。」


精一杯の笑顔で強がってみたけど,目から溢れ出るもので桂の顔が見えなくなった。


「死んじゃった人を好きって…そんなん理由にならないですよね。」


だってもう居ないから。
だけど大切な人だから忘れたくない。
私の気持ちはまだ変わってない。
ううん,変わらない。
好きなのは貴方だけだから。







もし誰かを好きになってしまったら,胸の中はその人で一杯になってしまう。


そうすれば私の中の彼はどんどん薄れていくだろう。
やがて忘れてしまうだろう。


「嫌なんです…忘れたくない!
全部消えちゃう…。そんなの嫌やぁ…。」


どうしようもない不安から三津は激しく嗚咽した。









桂は泣きじゃくる三津を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。


「生きていても死んでしまっていても大切な人に変わりはないなら理由になるよ。
忘れられない人がいる。
そう伝えればいい。ただそれだけでいい。」


優しく背中をさすりながら諭すように囁いた。


こうする事で三津が一人で背負いこんだものが軽くなればいい。
そう願いながら小さな背中をさすり続けた。


『この世に亡き相手を想う…か。
そんな辛い恋をしながら笑ってたんだね。君って子は。』



今はただ静かに三津が落ち着くのを待った。『うーん…どうしよう…。』


徐々に落ち着きを取り戻した三津はゆっくりと呼吸を整えながら,今の状況を整理した。


我を忘れて号泣して顔はぐちゃぐちゃ。
桂に抱き締められて体の自由はきかない。


『あ…。桂さんの着物濡らしてもた…。』


自分が顔を埋めていた所は見事に涙の染みが出来て変色してしまっている。


とにかく謝ってお礼も言おう。
でもその前に,離してくれないだろうか…。


桂の心音が規則正しく聞こえてくる。
だから余計に自分の鼓動の速さが尋常じゃないと思う。


『離してくれへんかな。でもみっともない顔やし…。』


腕の中でもぞもぞと身を捩っていると,桂の頬が涙で濡れた頬に引っ付いた。
今度は桂の息づかいが聞こえる。


「落ち着いた?」


耳元で響く声がくすぐったくて恥ずかしくて,目の前の胸を押してみるが体に隙間は生まれない。


『逃がさないから。』


桂はくすっと笑って離れようとする体を胸に引き戻す。


別にからかってる訳ではない。
体がこうしていたいと勝手に動くのだ。


三津に会った時から始まったこの衝動は何なのか。


自分でも何がしたいのか不思議で堪らない。


「すみませんでした…。もう大丈夫です。」


腕の中からか細い声が聞こえた。
離してくれと言っている。


三津の困惑している顔が目に浮かんだ。


困らすつもりもないのだけれど,離すつもりもなかった。
  


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